様々な薬を身体に近づけると身体が緊張したり弛緩したりするという現象があります。この現象によって適不適が判断できるのですが、普通は一つの筋肉の緊張と弛緩のみによって判断するのですが、私は一つの筋肉だけでなく全身の筋肉の状態を観察します。全ての筋肉を徒手筋力検査のような方法で調べていたらきりがないので、タッピングや皮膚張力検査といった簡易な方法で全身の緊張を探ります。この方法なら全身を調べても一分もかかりません。慣れてきたら直接触らなくても空間上で判断することも可能になってきます。
全身を調べる良い点は、一つの筋肉における緊張と弛緩ではわからない細かい状態が観察できることです。またイメージングを切りかえることによって、効果がどの深さまで到達するのかを判定することもできるようになってきます。
まずは何かの目標となる異常を見つけることが先決です。何故ならどんな異常に対して、漢方薬を処方するのかということが問題になってくるからです。漢方の考え方は鍼灸治療にも共通する部分があるので、知っておくと非常に役立ちます。ただ、漢方薬の本を隅から隅まで読んで熟知しているから治療が可能かというとそう簡単ではありません。
私は、その問題を解決するために筋力検査を使っています。人によって様々な反応を示しているので、常にケースバイケースとなるのが鍼灸治療や漢方治療の醍醐味です。あるアトピーの患者さんを例にとってみて、その反応を調査し、治療した一部を紹介致します。

女性で30代後半のアトピー性皮膚炎の患者さんでしたが悪化し、顔に赤みとかゆみがでていました。何らかの体力低下があるはずだと思い、漢方的な調べ方を筋力検査で行ってみました。まず目標にしたのが裏寒反応です。
漢方の基本として
A.裏寒の治療を最優先
B.脾胃を整えることが治療の要
C.補ってから攻める、温めてから下す。
という原則があるらしいです。これは鍼灸治療でも同様の考え方をしますが、漢方ではそのものに対して直接投薬していくような感じがあります。
まず筋力検査で裏寒の場所を特定しました。そうすると左臍下から恥骨、大腿内側、下腿内側、左臀部(仙腸関節下部から尾骨付近)、大腿後内側から膝内側、下腿内側からアキレス腱部までに裏寒証がありました。大腿骨、脛骨、腸骨、仙骨にまで達する冷えが存在し、胃腸にも冷えが存在しています。表と裏の違いは、筋肉の上の反応か下の反応かで判断しています。骨、内臓、膜は裏証と考え、皮膚は表証と考えます。筋肉や腱は表でも裏でもない(どちらにも含む存在)と考えて判断しています。漢方の基本である裏寒、脾胃、補って温めるものの裏寒、脾胃の反応が左側にのみでている状態と判断できます。
意識を切りかえ、タッピングを行えば1分以内にはその判定ができるのがタッピング法の良い点です。裏寒のファーストチョイスは人参湯だと思いますが、人参湯では大腿骨の冷えの反応は消去できませんでした。合方か追加処方でそれを調整できるかもわかりませんが、一包で調整するには不適でした。漢方の基本Bである脾胃を調える方法の漢方薬で六君子湯は骨の冷えも調整し、胃腸の反応も調整する感じで作用するようです。しかし、胸部に反応が出現してきます。
ここが一つの筋肉のみで調べる方法との違いです。一つの筋肉だけを調べると六君子湯はかなり適応能力が高いと判断できるはずです。しかし、マイナス面もあり、胸部に異常反応が出現してきたのです。このあたりはどんな漢方薬の本を読んでも書いてないかもわかりません。適応することばかりで、その薬の反作用のことはことこまかく書いてある訳ではありません。そういう場合表にでてきた胸の反応を知っていれば追加処方によって消去することができると思います。しかし本を読んだだけで処方すればせいぜい六君子湯に突き当たることぐらいしか想像できないと思います。もちろん経験のある漢方医の場合ならすぐに適応を見つけるはずです。しかし、その裏に起こることまでは予測できなかったりするはずです。
そこで小建中湯と黄耆建中湯で適応を調べてみることにしました。反応を消去し、なおかつ他に反応が出現しない条件を兼ね備えているのは黄耆建中湯でした。足の冷えと胃腸の反応が消去され、胸にもどこにも反応がでなかったのです。つまり最適処方だといえると思います。
本を読むとからだが冷えやすく、胃腸が弱く、皮膚の弱い小児に。と書いてあるので、この患者さんの場合、黄耆建中湯を選ぶことはないのではないかと思います。小児でもなければ冷えと胃腸を調整するということだけでは、この処方には行き当たらないと思います。
私は漢方の専門家でもないし、漢方薬を処方する資格もありませんが、鍼灸治療の解釈を深めるためにこういう研究をおこない、鍼灸治療の確認に使っています。それなので、この処方が絶対とはいえませんが、かなり詳しく調べることが可能です。またこういう解釈ができれば、漢方薬を扱う方にとっても非常に明快な答えを得られるようになってくるのではないかと思います。
漢方薬の基本のABC的な発想のみで、ある程度の反応を消去できる処方に行き当たることができたということは鍼灸治療を行う上で非常に有益な情報だと思います。なぜならその方が小児が示す状態になっているほど冷えによる体力低下が起こり、胃腸を崩していると判断できるからです。胃腸を調え、慎重に刺鍼しなければならない方だということがわかります。
また黄耆建中湯のタイプと小建中湯のタイプ、六君子湯のタイプというのも後々身体を診ただけでわかるようになってくるはずです。それによって刺鍼の方法を変えることもできるという訳です。
経験は本から学べるものではありません。しかし、ただ経験しただけではホントの意味での経験ではありません。理解しながら経験を積み重ねることでより創造性の高い直感へとつながっていくのです。闇雲に長年やっているから経験があると思ったら大間違いです。経験とは理解しながら創造性を高めている時のみ経験値が高いといえるのです。漢方薬の研究もまだまだこれからなので、理解を伴う経験をしつつ創造性を働かせて、私なりの処方ができるようにしていこうと思っています。今後の大きな研究課題だと思っています。