滋賀県東近江市の市民A氏が、隣接する愛知郡愛荘町役場に電話をかけ(2007年8月)、「○○(地名)は同和地区か」と問い合わせたことが「大事件」となっていることについて。(参考:マリードフットノート » 同和独裁 電話の具体的な内容については東近江市のホームページ「愛荘町役場への電話による同和地区問い合わせ問題について」を参照してください)
これは、東近江市という一自治体の事件に過ぎないが、この種の案件は少なくない自治体においても発生し、悩みのタネとなっている。もう少し、問題を考えるうえでの材料を提示しておきたい。
東近江市は、独自調査を踏まえ、これは差別事件とは言えないとする見解「愛荘町役場への電話による同和地区問い合わせ問題について」をまとめた(2008年2月)。ところが2009年2月、市長選挙で初当選した新市長は、すぐさま「見解」の見直しを表明、滋賀県、愛荘町、そして部落解放同盟滋賀県連などとの協議を再開するとともに、新たな「見解」づくりに着手した。
この「事件」については、県も愛荘町も当初から「差別行為」であり、「許さない」とする「見解」を2008年2月までにそれぞれ明らかにしている。
滋賀県の「見解」:
この行為(寺園注──問い合わせの電話をかけたこと)は差別行為であり、部落差別意識の助長・拡散や、重大な人権侵害につながるおそれのある行為である。…たとえ差別の意図や意識がなかったとしても、今回のように同和地区かどうかを問い合わせること、同和地区の人の名前を騙ることは差別行為であり、重大な人権侵害を引き起こすおそれのある行為で、決して許されるものではない。
愛荘町の「見解」:
今なお、部落差別が存在し予断と偏見による、部落差別意識が根強く持たれていると認識しました。…今回のような同和地区を問い合わせる行為や、同和地区の人の名前を騙ることによって、多くの人が傷つくようなことをは差別行為であり、重大な人権侵害である。
もちろん解放同盟も、「現実の差別の実態を踏まえるならば明確な差別をするしないの意思があるかないかは関係なく同和地区を調べたり、教えたり、表示することは差別であり許されない行為です」。地区住民の名前を騙ったことに対しては、「エセ同和行為」とし、これは犯罪行為だとまで言っている(「同和地区差別問い合わせ事件糾弾要綱」)。
じつは行政も解放同盟も、今回の問い合わせ電話について、本気でこれは深刻な問題だとは思っているわけではない。
以下ふたつの事例を示す。
2006年5月17日、わたしは滋賀県庁の人権施策推進課を訪ねた。県がいまだに解放同盟の確認・糾弾会実施を後押しするようなことをくり返している問題についての取材のためだった。
当時、不動産業者がどこそこの土地は同和地区かどうかと役所に問い合わせたことで、解放同盟が糾弾会を開き、この業者を追及していた。解放同盟の確認・糾弾会には県の担当職員も参加していたのだ。解放同盟の確認・糾弾会に行政がお墨付きを与えているようなものであり、1989年の法務省通知から逸脱している。
このとき、取材に応じた職員は「どこが同和地区か問い合わせることはいかなる理由があっても許されない」という説明をくり返した。わたしが「知ることがなぜ差別になるのか」と聞くのだが、職員は「同和問題はまだまだ課題が多い」と答えるのである。
いろいろやり取りをしたあと、わたしはこう言ったことを覚えている。
「課題が多いって、それほどいうのならいっぺん県内の部落を取材して、どんな問題あるか確かめてみたい。部落はどこにあるか教えて欲しい」
職員「教えられない」
記憶をもとに書いているので、言葉通りでないかもしれないが、やり取りの趣旨はこのようなものだったと思う。
つまり、わたしは県の窓口で「部落がどこにあるか教えてくれ」と依頼したのだ。上記滋賀県、愛荘町、解放同盟の認識によると、わたしの行った依頼は重大な人権侵害ということになろう。
ところが、その場でそういった依頼をしたことついて叱責されることはなかった。応対した職員には名刺を渡しておりわたしの連絡先は知っているはずなのに、事後今日に至るまでなんのおとがめもない。これはいったいどうしたことか。
これよりはるかに明確な形で、部落所在地を問い合わせている人がいる。こちらのほうが行政、運動団体の矛盾した対応がよくわかる。
鳥取ループ +滋賀というブログがある。その主宰者(以下「ループ」氏と呼ぶ)は、解放同盟の機関紙『解放新聞』で東近江市民の電話問い合わせが問題となっていることを知る。そこで、情報公開制度を使って滋賀県と愛荘町に、行政が同和事業の対象としている地域を示す公文書の開示を請求したのだ。
以下同ブログ記事の内容を紹介しよう。
「ループ」氏の問題意識は、特定の地域、住民を対象とした同和事業を実施する一方、その対象となっている場所を知ろうとするとする市民が行政によって差別者扱いされるなんておかしいというものだ。
公金が使われている以上、どの地域にどのような政策が行われているかをオープンにすることは、公正で民主的な町政のために重要なことですね。また、同和地区がどのように把握されているものなのか、実際の文書を目にしたことはないので、非常に興味のあるところです。町内に土地を所有している人は、どこが同和地区なのか知らないと同和減免は受けられないはずなので、非公開情報や個人情報でもなさそうですね。(鳥取ループ +滋賀 同和地区問い合わせは差別(滋賀県愛荘町))
市民が電話で問い合わせただけで差別者とされたが、情報公開請求という行政の制度を使って問い合わせるとどうなるのか。多くの人も関心をそそられる行動だろう。
結果は、愛荘町は「文書不存在」、滋賀県は「非開示」という回答だった。
また、「ループ」氏は、情報公開請求だけでなく、県知事に対してはメールで、「このような請求をするのは差別行為となるのか」と問い合わせ、愛荘町に対しても電話とメールで、「○○地区は同和施設が集中しているがここは同和地区か」とまで質問している。
これに対し、知事は人権施策推進課を通して「差別事件には当たらない」と回答、愛荘町は「回答しない」と回答した。
「ループ」氏は愛荘町に電話とメールで所在地を質問した際、この質問を問題にするのなら自分の連絡先を解放同盟に通知してもよいとまでいったというが、いまだ解放同盟からは抗議電話一つかかってこないそうだ。
これはいったいどう考えたらよいのか。
わたしのように県の窓口に行き、「取材したいので部落がどこにあるか教えて欲しい」と言ったり、「ループ」氏のように情報公開請求や堂々と名乗って電話やメールで問い合わせをしても、差別者にされるどころか、問題にもされない。
一方、東近江市のA氏が電話で問い合わせをすると、差別事件として官民一体となった騒ぎが起き、彼の住む自治体首長は糾弾されてしまうのだ。しかも、A氏は度重なる行政からの事情聴取を受け、説諭され、反省文も書いたにもかかわらず、2年近く経った今もまだ許されていないのだ(先月の東近江市会で市長は再度A氏に対する事情聴取を行うと明言)。
滋賀県も愛荘町も、そして解放同盟も、なぜこのように著しくバランスを欠いた対応をとるのか。おかしいではないか。
冒頭、行政も解放同盟も本心ではそうたいした問題だとはとらえていないと書いたのは、こういった疑問からだ。とりわけ解放同盟については、彼らには別のねらいがあって、騒ぎ立てているとしか考えられないのだ。